「ある少年との切ない別れ」 ・・・ その少年の 「手紙」
「十一年前の春、ある少年とのとても切ない別れがありました。三年間セミナーに在籍した下田将治君。彼は小学校四年生の春、作文朗読教室に入塾しました。どちらかといえば、目立たない、口数の少ないおとなしいタイプの生徒でした。 ・・・」で始まった、冬の発表会での蛎崎先生の朗読。そこで紹介された彼の手紙。少し汚れたチラシの裏にびっしりと細かい字で書かれた手紙。彼の思いに涙しました。
蛎崎先生へ
突然引っ越しすることになり、家族一同あわてふためいています。面と向かって先生に言えないので、こうして手紙という形で感謝に代えさせていただきます。もう何もかも荷物をまとめてしまったので、紙がそまつなものですみません。
こうして手紙を書いているといろいろなことを思い出します。作文の書き方を全く知らなかったぼくに先生は本当に熱心に教えて下さいました。緊張の発表会も経験しました。貧血で倒れたことも今となってはいい思い出です。楽しかったかるた大会やクリスマスパーティ。何もかもいい思い出です。
先生が一生けん命ぼくたちに教えてくれた、その一コマ一コマの姿をぼくは忘れません。何のとりえもないぼくのことをいつもほめてくれた先生。中学受験で気持ちに余裕のないぼくのことをいつも心配してくれた先生。国語力養成講座が終わって帰る時、ぼくたち兄弟のすがたが見えなくなるまで見送ってくれた先生。よく問題を起こす生徒に対して本気でしかっていた先生。やるべき時には真剣にやらなければいけないということを先生は教えてくれました。
ぼくは先生のことを一生忘れません。三年間、本当にありがとうございました。
春の気配が感じられる四月四日、ぼくはK’sセミナーを去ります。いつも帰る時、先生に「さようなら」と言うたびに、あと何回こうして先生に「さようなら」を言えるのだろう ・・・ とさみしく、悲しい気持ちになっていました。
ぼくがこのセミナーに入塾したのは、小学校四年生の時です。不器用なぼくにとっては何もかもが大変でした。国語養成でもみんなのようにはなかなか覚えられませんでした。でもセミナーに入ったおかげで、ぼくは本が好きになり、よく読むようになりました。本は苦しい時こそぼくの心のなぐさめになりました。最初の作文コンクールの課題図書は最も強く心に残っています。「トトの勇気」という本です。この本を読んでぼくは挑戦することの大切さを学びました。それ以来ぼくは自分なりにがんばってきました。気の弱いぼくだけどがんばっているうちに少しずつ自分が成長できたように思います。ぼくはこのセミナーに入って、本当良かったと思います。
ぼくがいなくなったあとも当たり前のようにK’sセミナーで学べるみなさんのことがぼくはとてもうらやましく思います。
今まで、僕といっしょに学び、たくさんの思い出を作ってくれたみなさん、三年間、本当にありがとうございました。
さようなら。